薬師寺さんはフジの人工尾びれを創るにあたり、“尾びれのカタチの持つ意味、そして、美しさ” の重要性を一貫して訴えてきました。
薬師寺さんが尾びれのカタチ、美しさにこだわった理由と、フジからもらったメッセージとは…。
── 薬師寺さんはフジの人工尾びれを創るにあたり、カタチの持つ意味と美しさにこだわり続けたと伺いました。なぜでしょうか?
人工尾びれのプロジェクトにおける自分の立場は、化学反応における “触媒” にたとえたことがあります。
ブリヂストンという世界有数の技術力に対して、僕が影響を与えることができるとしたら、彫刻家として、またイルカやクジラと泳ぐスイマーとしての感性しかないと信じてきました。
その感性から、このプロジェクトに関わった当初からずっと訴えてきたことは、カタチの持つ意味、そして美しさです。
フジの尾びれは、残された小さな尾びれになっても、そこにはしっかり個性が表れていました。
そしてそれは彼女の三頭の子供たちの尾びれにも表れていました。
だからどうしても、フジの家系が持つ尾びれの個性を人工尾びれに再現する必要があると思ったのです。
フジの失われた尾びれのカタチを追い続け、一本目の「ポリカーボネイト人工尾びれ」、二本目の「ハイブリッド0号尾びれ」、三本目の「シェル0号尾びれ」を創って、プロジェクトメンバーに、そのことを伝えたかったのです。
その思いが実を結び、フジの家系の尾びれを表現した二本の尾びれが完成しました。
一つは “シェルタイプ E-1 尾びれ”、そしてもう一方が “カウリングタイプ YBECC(ワイベック)” です。
私が提案し続けたフジの家系の尾びれ “シェルタイプ” をブリヂストンの技術力により、創り上げたのが “E-1”。
そして、この “E-1” の成功を元に、“カウリングタイプ” というブリヂストンが進めていた尾びれのカタチや素材をリニューアルした完成形とも言える最高の尾びれが、YBECC(ワイベック)です。
ちなみに、ワイベックの “Y” は薬師寺、“B” はブリヂストン、“E” はブリヂストンエンジニアリング、“C” はブリヂストンサイクル、そして、最後の “C” は美ら海水族館から名付けられたものです。
これらの尾びれが完成した時は、泣けるほど嬉しかったです。
── 尾びれの美しさにこだわり続けたことで、心に残る出来事があったそうですが。
はい、あれは、私が練習しているプールで、一人の女性がかけてくれた一言でした。3年に渡るプロジェクトの中でも、最終段階の手前の最後の生みの苦しみのようなつらい時期で、私も相当まいっていた時でした。
彼女は、「このプロジェクトに “美しい人工尾びれにしなくては” というカタチの綺麗さにこだわり続ける人がいてくれて、本当によかった、ありがとう!」と言ってくれ、自分の足が不自由なことも話してくれました。
そして、以前、自分の足に合わせ、思い切って特別にオーダーした靴が、出来上がってみると、最初にイメージしていた美しさを失っており、悔しさに泣き明かしたことがあったことなども話してくれました。
だから、「フジがうらやましい」 と笑顔で話す彼女の言葉を聞きながら、まるで、フジからのメッセージのように思え、最後の力を振り絞る勇気や力をもらいました。
そして出来上がったのが、“シェル E-1” と “YBECC(ワイベック)” でした。