沖縄美ら海水族館に暮らす尾びれを失ったメスのバンドウイルカ、フジ。フジは、尾びれが急速に壊死するという非常に稀な病気にかかり、手術で尾びれの約 75%を失いました。導かれるようにフジと出会った薬師寺さんは、フジのために人工尾びれを作ることになりました。
── 薬師寺さんが 沖縄美ら海水族館で暮らすイルカ、フジの人工尾びれをつくることになったきっかけはなんだったのでしょうか?
御蔵島のイルカをイメージして作った「Mikura」という作品がありまして、それがきっかけになりました。
イルカは、海域によって、微妙なことなのですが、骨格が違います。
例えば、小笠原とか御蔵島とか日本近海のバンドウイルカは筋骨隆々なんです。
もともと僕が無意識に “日本近海のバンドウイルカって筋骨隆々だなあ” と思って、御蔵島のイルカをイメージした「Mikura」という作品を作ったのですが、その作品を、イルカやクジラが座礁した時に解剖して原因を調べる仕事をしている研究者の方がたまたま見てくれたんです。
ちょうどその頃学会では「日本近海のイルカは、ちょっと他のバンドウイルカと違って筋骨隆々だから、分類した方がいいのではないか」ということが話題になっていた時だったそうです。
この方が僕の作品を見て、“すごいな、こいつ” と思ってくれたみたいです(笑)
この研究者の方が僕と沖縄美ら海水族館の獣医師を引きあわせてくれたんです。
獣医師は僕と同じ年で、大阪出身の子なんで、「この二人を会わせたら、なんか面白いことになるやろ」と思ったそうです。
“人工尾びれプロジェクト” の2年くらい前に会わせてもらって、仲良くなりました。
そして獣医師がフジの話をしてくれて、そこから、“フジ” の人工尾びれを一緒に作ることになりました。
── “人工尾びれプロジェクト” にはゴムメーカのブリヂストンも参加されていますね。
はい。獣医師が僕のところに来る前にブリヂストンにお願いをして、人工尾びれを作り始めていたんです。
イルカの尾びれにゴムの素材が一番似ているだろうということで、美ら海水族館側から声をかけたそうです。
でも、ブリヂストンにとっては、全くの畑違いで、イルカのことがわからないので、試行錯誤されていました。
当初、僕がこのプロジェクトに呼ばれた目的は、ブリヂストンが作ったものを僕が削って形を綺麗にするということだったんです。
ただ、ブリヂストンの皆さんが尾びれの製作にご苦労されているのを見て、僕はアメリカでイルカの勉強をした知識や、15~6年イルカと泳いでいる経験がありましたから、それらを活かせば、より良いものが作れるのではないかと思い、僕も作ってみたいと思うようになったんです。
それで、美ら海水族館の館長さんに、「僕にも一本作らせて下さい」 と直談判しました。
どうしたら良いものになるかを口で説明するより、実際に作ったものを見てもらった方がいいと思ったんです。
館長さんとも話し合って、別の視点から作ったものがあって、それらが切磋琢磨したらより良いものになるだろうということになって、僕も尾びれを作ることになりました。
正直、自分の作品を創作しながら、イルカの尾びれを製作するというのは、スケジュール的に厳しかったです。
でもこれは自分が作るか作らないかで、自分の人生が、ぜんぜん変わるし、作らなきゃならないとはっきり分かっていました。
だから、“絶対これを作る” と思って、やったんです。