2009年秋、都内で開催された彫刻家 薬師寺一彦さんの個展にお邪魔しました。作品に閉じ込められた動物や植物、森や水の温かな息吹、見たことがない光輝く美しさに、作品はどのようにして生まれたのか、薬師寺さんはどんな方なのか、次々と疑問が湧き上がりました。気付けば3時間・・・時が経つのを忘れてお話を伺い、そこに作品の魅力を紐解く鍵がありました。まずは、美しいアクリル彫刻がどのようにして出来るのか、秘密を伺いました。
── 美しい作品ですね。本物の海を見ているようですが、この彫刻はどのようにして作られるのでしょうか?
本当にラフな型ですが、型を作ってそこにアクリルを流します。僕は、同じ形のものを作りたくないので、ほとんど、一回使い切りの型を作ります。アクリルは収縮凝固といって、縮んで固まるんですね。2割も縮まるんですよ。さらに、どこが縮むかもわからないんです。まったく予想しないところが、縮んだりするんです。それで、アクリルを型に流すときは、毎回賭けなんですね。まあ、ある程度の経験則はあるんですけど、これは無理かなとか思いながら、流すときもありますし、案の定無理だったりすることもありますし(笑)。
── 波の部分の曲線やギザギザは?
滑らかな曲線や波のギザギザのところは型から取り出した後、ラインを引いて、削って、磨いています。最初型にアクリルを 30キロくらいで流した場合、削った後は、20キロ弱くらいになるので、かなり削ります。
── 削るのは手作業なのですか?
ディスクグラインダーとかルーターを使ったりします。やっている作業はあまりお見せできないです(笑)。イメージ的にはサーフボードを削っている作業に近いかも知れないです。粉だらけになります。
── 彫刻の外側も中のイルカの部分もアクリルですか?
中はね、ちょっと企業秘密で言えないんです。けど、外側は完璧にアクリルです。
── 作品によって色も違いますが、色はどのようにしてつけるのですか?
液状のアクリル溶剤と粉末のアクリルを混ぜえるときに、顔料を溶かし込む感じです。単調にグリーンじゃなくて、グリーンにちょっとブルーを混ぜたり、そこへちょっと光るものを混ぜたりとか、色々します。出来上がりの色はおよそ予想できますが、全然違うものとなることも稀にあります。
── どのようにして色を決めるのですか?
そうですね。もともと作るときに、“ここの海”というのをイメージして作るんです。例えば、沖縄だったら僕の頭の中にある沖縄の海のイメージで、この色って決めているんです。自分の中の空想、頭の中のイメージで作ります。
── ちなみに、重さはどのくらいあるものなのでしょうか?
10キロ前後から 30キロくらいです。最大で 50キロの作品も作ったことがあります。
── 30キロって結構、重たいですね。
いや。アクリルは 比重が約 1.25 で、クリスタルガラスは、約 2.5 あるので、ちょうど倍なんですね。だから、同じものをクリスタルで作ると 60キロくらいになってしまうので、僕らのイメージからすると、思ったよりは軽いです。だいたい、普通は 10キロ前後から 20キロぐらいが一般的な作品だと思います。
── 作品を作る際は、例えば沖縄のイルカであれば沖縄に行って、イルカと泳いで、そこからインスピレーションを得て制作されるのでしょうか?
実際に行くようにはしています。ただ、北極で熊と泳いではいないですが。大事なのは、クジラと泳いでもそのまま形にするわけでなくて、そのクジラの背後にあるストーリーというか、それを想像して作ることです。生まれて5日目のイルカの赤ちゃんも見たことがあります。ですが、野生の中で生まれた瞬間は見ていません。あくまでも野生は想像です。でも、嘘はつかないように、野生では見られない瞬間は、映像や写真を観たりして想像をしています。
── タイトルはどのようにしてつけるのですか?
最初からこういうタイトルで作ろうという時もありますが、なんとなく姿や形が出来てから、タイトルがつくほうが多いです。形になるまでは名前つけたら、だめだなと思うというか、作品を見てから直感で付けます。