寝ないで寿命を延ばす不思議な風習

睡眠不足が、さまざまな悪影響を人体におよぼすことは、すでに証明されています。もっとも有名なものとしては、1980年代にアメリカで行われた研究があり、こちらによると1日の睡眠時間が6.5~7.5時間の人がもっとも長生きで、それ以上睡眠が短い人や長い人は、寿命が短くなるというのです。他にも「脳卒中」「糖尿病」「心臓病」などのリスクがあがり、そもそも免疫力自体が低下することもわかってきています。

「寝る」という活動は、人間にとって必須のものであり、睡眠は身体を休めるだけでなく、新陳代謝を活性化し、傷ついた部分を効率よく修復していきます。また、脳を休めることで、日中に受けたストレスなどの精神的な傷も回復させてくれるのです。

こういったことから、睡眠は非常に重要なものですが、昔の日本にはまったく反対の風習が存在していました。それは、一晩中寝ないことで寿命が延びるというもの。この風習は「庚申待(こうしんまち)」と呼ばれていました。

今では、ほとんど行われませんが、かつては頻繁に行われており、現在でも庚申待が行われていた「庚申堂」や、庚申待を長く続けた記念に建立された「庚申塚」が全国各地に残っています。それだけポピュラーなものだったわけですが、いつしか廃れてしまいその痕跡だけが残っているわけです。

庚申待には、さまざまな御利益があるのですが、大元は道教に伝わる思想でした。それによると、人間の身体には「三尸(さんし)」と呼ばれる虫が存在しているといわれています。この虫は常に人の悪事を監視しており、ある特定の夜にだけ人から抜け出して、天帝に報告するのです。

悪事の報告を受けた天帝は、それをもとに寿命を短くしたり、場合によっては地獄行きを決めるといわれていたので、下手なことを告げ口されないように、虫を身体から逃がさないように寝ないで夜を明かすというのが、庚申待の由来です。

平安時代頃に中国から伝わった風習であり、最初のうちは貴族が一晩中、和歌を詠んだり宴会をしたりするというものでしたが、この宴会が庶民にも伝わったことで、いつのまにか、神仏が登場し、たんに遊ぶだけでなく、神仏に願いをかけることで、より多くの御利益を得るようになりました。

元々が、道教由来であったこともあり、庚申待の本尊は多種多様です。今でも残っている庚申塚には、よく「青面金剛」が刻まれています。こちらは、仏教の神ではありますが、インド伝来ではなく、道教由来であるために、本尊として選ばれたのでしょう。神道では庚申の「申」にひっかけて、「猿田彦神」が祀られています。

この「申=猿」という思想はかなり流行したようで、庚申塚などには、「見猿、言わ猿、聞か猿」の三猿が彫られています。これは、虫がつげぐちをしないように、見て見ぬ振りをしてほしいという想いと、語呂合わせが組み合わさって生まれたといえるでしょう。

庚申待がこれだけ広く流行したのは、今のように気軽に宴会ができなかった時代に、庚申待という理由をつけることで、一晩中宴会が出来たからかもしれませんが、長生きをしたいという願いも強かったのでしょう、ちなみに、今でも残っている庚申堂では、こんにゃくを食べることで願い事が成就するというものや、猿のお面を玄関にかけておくことで、災いをよけることができるといったものが追加されています。

庚申待の日は、60日に一回巡ってきますので、今年はあと「8月12日」「10月11日」「12月10日」の3回が残っています。興味をもった方は、この日にはあえて徹夜をしてみるというのも面白いかもしれませんよ?