皆さんは「なめくじ」という生物をご存じでしょうか? 多くの方が、1度は目にしたことがあると思います。貝の一種であるものの、殻が退化しているために、ぬめぬめとした体をしていることから、生理的に嫌悪感を覚える人も少なくないでしょう。植物を食い荒らしたり、寄生虫や病原菌の宿主となりやすいこと、さらに見た目の悪さから、駆除の対象となっているなめくじですが、そんななめくじが主役のお祭りを本日は紹介したいと思います。

毎年旧暦の7月9日、現在でいうとだいたい8月下旬に行われるこのお祭りは、その名もズバリ「なめくじ祭り」というもの。岐阜県の中津川市で行われているのですが、1986年に始まったもので、歴史はそんなに古くありません。しかしながら、当地に古くから伝わってきた伝承が元になっているのです。

平安時代末期から鎌倉時代にかけて活躍した、文覚(もんがく)という僧侶がいました。彼は生涯で3回も流罪になるという、波瀾万丈な人生を送った人物で、強い法力を持っており、行動力がある反面、乱暴者だったとも伝えられています。元々は武士だったのですが、とある事情があって出家することになりました。

彼が出家した理由は、従兄弟であり、当時の同僚であった人物の妻である「袈裟御前(けさごぜん)」という女性に思いを寄せ、その結果、誤って殺してしまったというもの。行動力はあるけれども、乱暴というのがよくわかるエピソードですが、文覚の死後、彼のお墓に特定の日だけ、刀傷のあるナメクジが現れるようになりました。

この日は、仏教の九万九千日であり、なおかつ袈裟御前の命日にもあたるのだそうです。九万九千日とは、以前に紹介したことのある四万六千日と同等のものであり、この日に参拝することで、九万九千日参拝したのと同じ効果があるといわれている日。このことから、文覚の罪を許した袈裟御前が、なめくじに姿を変えて、彼のことを慕って現れるようになったといわれています。

罪を許すのはともかく、なめくじの姿で慕うというのはどうなの? という疑問も残りますが、この伝承を元にはじめた「なめくじ祭り」は開始された当初は、地元の人しかこなかったものが、いつしか奇祭としての知名度があがり、去年は4000人以上の人が訪れたのだそうです。

伝承自体は元々あったとはいえ、新しいお祭りが誕生し、それに多くの人が集まるというのは、今後の日本の文化を考えると望ましいことですが、成功の原因はなめくじというインパクトが大きい生物が関わっていたことなのは間違いないように思います。

なめくじという、多くの人に嫌われている存在をお祭りに取り込むというのは、古来から続く全ての物に神が宿るという日本の精神が未だに廃れていないことを示しているのかもしれません。