神秘を感じさせる紙のお面

能を筆頭にして、日本古来からある芸能ではお面を着けることが多いのですが、これは単なる演出上の問題だけでなく、スピリチュアルな意味合いも存在していると考えられてきました。

たとえば能面は鬼神・老人・男・女・霊というように、大きく5種類に分類できるそうなのですが、男、女の面以外はほとんどがスピリチュアルな存在を表しているのです。このことからも、お面とは人間が別の存在へと成り代わるための呪具としても使われていたと言えるでしょう。能面の般若(はんにゃ)などは比較的有名で、能を観ない人でも知っているかもしれませんが、基本的に木材をベースにした能面にはリアリティがあり、ちょっと怖いイメージがあるかもしれません。

芸能で使われるお面というと、前述したように能面がメジャーなのですが、舞楽面というものもあります。こちらは、舞を伴った雅楽で使われるもので、美形の将軍が自分の顔を隠すために使ったという「蘭陵王(らんりょうおう)」などが有名な演目ですが、能に比べて、お面に中国やインドといった海外の意匠が感じられるのが特徴です。

能に比べて伝承者も少なく、現在では神社などの神事に合わせて行われることが多いようなのですが、こちらも単なる踊りではなく、天地の神に祈りを捧げたり、鳳凰や龍といった伝説上の存在をまねたりするなど、なかなかにスピリチュアルな内容となっています。

こちらのお面は、シンプルな中に迫力がある能面に比べると、仏像などと共通するような風情のあるものが多いのですが、その中にとても異彩を放つ面が存在しています。それが紙で作られた「雑面(ぞうめん)」と呼ばれるもの。

『デジタル大辞泉』によると「長方形の厚紙に白絹を張り、墨で人の顔を象徴的に描いたもの」とされているのですが、おそらく雑面を初めて見た人が、表面に書かれているものを人の顔と認識するのは難しいと思います。雑面に書かれている人の顔というのは、非常に象徴化されており、基本的には直線と丸、三角を主要なパーツとして、それらが組み合わさって構成されているのですが、人間の目にあたる部分といっても、三角の中に丸ひとつという、一つ目であったりしますので、人の顔というよりも、何か別の存在を表現しているように思えるのです。

実際にこの雑面を人ではなく、神の顔として表現した作品があります。スタジオジブリ制作の『千と千尋の神隠し』には、無数の神様が存在しているのですが、その中には明らかに雑面をモチーフにした面をつけている存在が登場するのです。雑面は舞楽の中でも「蘇利古(そりこ)」「安摩(あま)」という二つの舞でしか使われないということもあって、謎の多い面なのですが、一説によると元々は儀式用であり、降霊術の依り代(よりしろ)として使われたこともあるのだとか…。

人を表したのか、神を表したのか、非常にミステリアスな面である雑面。興味のある方は広島の厳島神社や、大阪の四天王寺などで行われる舞楽には登場することもあるそうですので、機会があったら実際に見てそのエネルギーを感じてみると面白いかもしれません。