お経を書いて心を安らかにする

写経(しゃきょう)という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 読んで字のごとくお経を書き写すことを写経といいます。

元々はまだ印刷技術が無かった時代に、仏法を広めるために経典を書き写したのが始まりとされています。今から 1,800年ほどまえ、西暦 200年頃の中国で写経が定型化され、日本では奈良時代に、なんと国家の施設として写経所がもうけられたのだそうです。

この写経所には、写経生と呼ばれる専門の職員がおり、休み無しで朝から晩まで仕事をしていたと言われています。なぜ、そんなにハードワークだったのかというと、給料が出来高払いだったからのようです。しかも、誤字があると罰金が科せられるということですので、ある程度の生活費を稼ぐためには時間をかけて、しっかりと経典を写さなければならなかったわけです。

このように元々は印刷の替わりとして行われていた写経ですが、平安時代頃から、修行や祈願などを目的として、僧侶だけでなく、一般の人も写経を行うようになってきたようです。ちなみに「法華経(ほけきょう)」というお経には、書き写すことも修行であり、それによって願いが叶うというようなことが書かれているようです。

現在では写経というと一般的に「般若心経(はんにゃしんぎょう)」といわれるお経を写すことが多いようです。般若心経はもともとは、全 600巻におよぶ「大般若波羅蜜多経(だいはんにゃはらみったきょう)」の中からエッセンスを抽出し、たった 276文字でまとめたものです。

文字数が少ないので写しやすいだけでなく、悟りをひらくための教えや仏教の心髄が書かれているとされ、多くの仏教宗派で読まれているため、写経のお手本にしやすいということなのでしょう。

実際には写経はお経であればどんなものでも OK ですので「十句観音経(じゅっくかんのんぎょう)」という 42文字しかないとても短いお経を写経したり、梵字を1文字だけ写経したりすることもあるようです。

さて、そんな写経ですが、最近では面白い試みが行われているようです。それは「写経コン」と呼ばれるもの。写経を通して、異性と知り合うというのは、心を落ち着かせたり、修行をしたりという写経とは随分違うように思えますが、なかなか人気があるようです。

「写経コン」では、男女がペアになり般若心経を書き写していきます。ここまでは普通の写経ですが、面白いのは1行書き終えるとペアの相手に席を譲って,次の1行を書いてもらうという点です。つまり、ふたりの共同作業によって写経が完成していくわけです。

相手が書く字をみて人柄を考えたり、交代で書いていく中で交流が生まれ会話が弾んだりするということで、実際にカップルが成立することも多々あるようです。

たんにお経を交代で書き写すだけでなく、僧侶から夫婦や婚活についての法話なども聞けるということもあって、寺社好きの男女に人気だという「写経コン」。これを出来高制で必死になって経典を写していた昔の写経生が見たらどう思うのでしょう? 案外うらやましがるかもしれませんね。